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  • 執筆者の写真sfumita7

日本人はビジュアル人間

更新日:7月7日



       歌川広重 『名所江戸百景 大はしあたけの夕立 』1857年

アートは「非日常的なもので、何だか分からないもの」と思い込んでいませんか。美術館や画集で世界的なアートを鑑賞してもよく分からないのは、絵心や感性、才能の有無の問題ではありません。言葉や歴史・文化が違う異国の書籍や映画を翻訳や字幕なしに眺めているようなものなのです。


      『サルダナパールの死』1827年 ウジェーヌ・ドラクロワ



中国春秋時代の軍事思想家 孫武の兵法書『孫子』に記されている「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず。」を読み解けば良く理解できます。アートには、それぞれ制作された成り立ちや題材の意図、技法の発展、画材の発明、作家の師弟関係やライバル、パトロンなど作者に影響を与えた人々など環境や社会背景の違いがあります。

 また、その時代のサイエンスとも共鳴し合ってきたアートは、文化的な生活習慣のあるすべての人に関係しているのです。アート作品や作家のエピソードは、その国の歴史や文化を理解すれば異なる文化圏の人々の心にも響くはずです。


     『モルトフォンテーヌの思い出』 1864年 カミーユ・コロー

 ヒトの祖先が絵を描きはじめてから現代まで3万年ほどのアート ヒストリーがあります。アートの歴史はヒトの進化の歴史ともいえます。美術館や学校など限られた空間だけでアートを意識して鑑賞したり学んだりしている数百年間は、3万年のアート ヒストリーの中では、ほんの一瞬の出来事です。

 古代では木の実などの樹液や土、血液などを混ぜて作った絵具と木の枝や動物の毛を画材として使い、中世ではモザイク画やフレスコ画などの技法が開発され、ルネサンス期以降、絵画技法の発展や油絵が発明されてから現代まで、社会の変化に伴って絵画様式もその役割も変わっていきました。

 このようなアートとサイエンスの発展によって、ヒトや社会の進化が促進されたともいえるのです。




 「脳内革命」によりホモ・サピエンスが生き残り、さらに「科学革命」によって地球上にヒトだけではなく、ヒトが必要とする動物(家畜やペット)や植物(農産物)が爆発的に増えていきました。世界的大ベストセラー『サピエンス全史』では「脳内革命」によってヒトが劇的に進化したことが記されていますが、これは火を発見したことや道具を発明し使うことで、食事などの習慣が変わり、他の動物とは違った生活をしているから脳が発達したということだけではありません。他にも存在していたヒトの種族の中で、私たちの祖先である「ホモ・サピエンス」が唯一生き残ったのは”虚構“する能力が生まれ、それこそが一気に脳内革命を引き起こしたということです。



「マンモスの牙を材料に作られた約4万年前の彫刻像です。ライオンの頭と人間の胴体を

 あわせもつことから「ライオンマン」とよばれています。」

 ※4万年前にライオンマンが作られた理由:宗教・呪術・共同体のシンボル 等

             

 何か才能や技術がないと創作、表現をすることが出来ないと勘違いをしている方がたくさんいます。絵にしても小説にしても勉強、仕事や遊びにしても大切なのは才能や能力の有無ではなく突き動かす衝動(虚構、仮説)であり、その衝動を誰かに伝えたいという欲求があるということです。だから時代を超えて多くの人に支持され残っているアート作品からは、作者の生き様や”強い想い”が浮き彫りになってみえてきます。

 そんな独特な衝動と欲求(表現)を読み解いていくと作品制作の意図や魅力に気づき、閉塞感から解放され、自身のモヤモヤしていた気持ちが晴れてバージョンアップすることができるのです。だからアートを理解できると気持ちが良く、リフレッシュして失くしてしまった自信や元気が出てくるのです。


『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』 

 1897-1898年 ポール・ゴーギャン

 作家自身と創造したアート作品は「気質、習慣、思いの強さ、誰かの支え、出会い、環境、…」とさまざまな境遇(組み合わされた条件)の違いによって異なる魅力や特徴、それぞれが唯一無二のものとして構築されたといえます。

 アーティストは十人十色で、それぞれが違った生き方をしています。それだけ生き方にはたくさんの選択肢があるということです。

 幕末志士の坂本龍馬が『人の世に道は一つということはない。道は百も千も万もある。』と語っていたように誰でもそれぞれ自分が選んだ表現(仕事)を磨いていけばいいのです。



 ドイツ出身のユダヤ人哲学者、思想家であるハンナ・アーレント(マルティン・ハイデッガーの元恋人)は、食べていくためにやることが「労働」、クリエイティブな自己表現が「仕事」、公共のためにやることが「活動」だと考えました。




 ドイツ出身のユダヤ人哲学者、思想家であるハンナ・アーレント(マルティン・ハイデッガーの元恋人)は、 「仕事」を【労働・仕事・活動】の三つに分けて考えました。 【労働】とは  食べていくためにやること、生活、我慢(つらい)、トラバーユ(労苦、骨折り) 【仕事】とは  クリエイティブな自己表現、充実(楽しい)、やりたいこと、探求したいこと 【活動】とは  公共のためにやること、ボランティア、満足(嬉しい)、奉仕

 絵を描くことが、ビジネス(仕事)にも有用であることが最近、浸透してきているようです。絵を描くことは、絵のプロになるためだけに必要なことではありません。

 絵の描き方を習うということは、じつはものの観方、多角的な視点、考え方、伝え方を学ぶということであり、それは単に目で見るよりもずっと多くのことを意味しているのです。

 よく観て繰り返し絵を描くことでものごとを前とは違うやり方で観ることができます。その身につけた技能を応用して一般的な思考や問題解決の能力を高めることができます。この能力は、すべての仕事にも有用性があるのです。

 その人の余暇の過ごし方が、余生の過ごし方になり、自分で考えて選んだ生き方が「人生」になっていくのです。あなたにとって「アートは仕事と無関係」だと言えますか。


”絵画や小説など芸術の手法は「異なった日付のさまざまな出来事や小さな事件を現在という時間のなかに呼び出し混合する」” by レヴィ ストロース



 芸術を愛するフランス人の働くこと、トラバーユ【travail:仏】は 痛み、労苦、苦悩を意味します。

 フランス人の社会人類学者クロード・レヴィ=ストロースは日本人の仕事に対する考え方、特に地方の民芸、職人の創造性のある仕事に興味を持ち 日本の仕事をtravailと訳せないと言ったそうです。



 日本文学も俳句もビジュアル的な言語、生け花も茶道もビジュアル的な文化、日本の文化は映像文化なのです。

 日本人は、世界の中で絵が上手い民族であることをあまり意識していません。日本人はビジュアル人間、ビジュアルを巧みに操ってきた民族なのです。だから日本アニメや漫画は世界から支持されています。そのDNAをもっと教育や仕事に活かせるのです。


   富嶽三十六景『神奈川沖浪裏』 1831-33年(天保2-4年)頃  葛飾北斎




日本人を見直す言葉


坂東玉三郎氏の芸の目的は「お客様に生きていてよかったとおもっていただくこと」




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