top of page
検索
執筆者の写真sfumita7

人の心を動かす力

更新日:1月21日




あなたは何者


 あなたは、”学び”たいですか。人は、なぜ成長を望み、研究を続けるのでしょう。あなたは、何のために働くのですか。あなたにとって「学問」とは何ですか、あなたにとっての「仕事」とは何でしょう。


 遠い昔、王に雇われる騎士や職人でも領土を借りて働く農民でもなく、自らの意志で生きはじめた大きな都市の市民には、「家柄、職業、宗教、国籍が問題なのではない。問題なのは、“おまえはいかなる人間か”といった新しい価値観」が生まれました。


19世紀、印象派の画家が描く絵に憧れて、パリ証券取引所の株式仲買人から画家に転職したポール・ゴーギャンは、大都会から南の楽園タヒチに飛び出し、名画『われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか』を最後に描き残しました。

 



 古代、エーゲ海に浮かぶ島々に都市国家をつくった民族、自由を好んだギリシア人の絶対的な美の基本は”emotion[心身の動揺を伴うような強い感動]”をどれくらい与えられるかにありました。

その頃はアートといった学術的な縛りはなく、教育や学問の目的が共通して人類に”emotion”を与えることだったといえるのです。ワクワクを感じるために学び、人の生活に“ワクワク感”を与えることが学問の目的でした。







『ギリシア哲学者アリストテレスと若きアレキサンドロス大王』



[art]は、ヨーロッパやアメリカで育った概念


「art」を翻訳するために日本が生み出した言葉「芸術」

「art」=「リベラル・アーツ」の意味

リベラル・アーツとは「すべての人に必要とされた学問」 ≒ 哲学                                     「人が持つ必要がある技芸(実践的な知識・学問)の基本」

•リベラル・アーツの7つの科目[ギリシャ・ローマ時代に理念的な源流を持つ]  文法学:言葉を正しく使う方法を学ぶ  修辞学:他人を論破する方法(弁論術、雄弁術、説得術)を学ぶ  論理学:思考のつながりを明確にする方法を学ぶ  算術 :計算方法を学ぶ  幾何 :図形や空間の性質について学ぶ  天文学:宇宙の性質や法則を学ぶ  音楽 :音の性質や理論を学ぶ


 そんな新たな“気づき”の喜びが「最も高貴な喜び」だと、芸術家でもあり多岐にわたる分野の研究者でもあるレオナルド・ダ・ヴィンチも話しています。


トリノ王宮図書館が所蔵するレオナルドの自画像(1513年 1515年頃)



 旧石器人からすれば、“学びと工夫“の面白さと同様に”仕事“も生きることが目的であり、スケジュールをいつも自分で決める毎日が新鮮でドキドキワクワクするものだったのかもしれません。

家族や仲間と共に生きていければ嬉しい。労働の原動力は、儲けや出世のためではなく、家族と一緒に生きていける”喜び”だったのです。

家族とは何でしょう。何のために学び、創造するのでしょう。そんな大切なことに気づき、“ヒトの種”が生きた時代から、ヒトが生きるために造りだしてきたことを見直す必要を感じています。





[creativity:創造性]と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?


 人の心を高揚させ、歓喜させるオペラやバロック絵画、ハリウッド映画、おしゃれなインテリアやファッション、浮世離れした芸術家、あこがれのイラストレーター、卓越した巨匠たちの彫刻、イタリアやパリでの生活、ルーブル美術館、印象派画家たちが描きだす輝く色彩…などでしょうか?また、思いどおりに絵を描いたり、創作できたりすることだけが創造性の魅力、威力でしょうか?


 日本では、芸能スポーツに関する情報やその選手、芸能人たちの活躍は各メディアで頻繁に紹介され、社会におよぼす影響力もひろく知られていますが、アートやデザインもまた、あらゆる分野での可能性を秘めながらその威力や魅力を充分に有効利用されていないのが現状です。スポーツと同様、創造性も日常生活に密着したものです。

また、その土地の文化に根付いたものであり、その時代を象徴するものでもあります。だからこそ創造性を学ぶことでその時代時代を生き抜く力を磨いていくことができます。


『牛乳を注ぐ女』1658年 ヨハネス・フェルメール



 遠い昔、人類の祖先であるラミダス猿人が二足歩行で両手を使い始め、その後その手を使い80万年前に火を発見し、30万年前には一部の人類種が日常的に使用していました。ネアンデルタール人やクロマニョン人は火を使い、石の道具を創り出すなどして、革命的に脳が発達したと考えられます。



7万年前から3万年前にかけて、人類は舟、ランプ、弓矢、針(暖かい服を縫う)を発明、芸術と呼べる品々、宗教や交易、社会的階層化を創造していきました。たんに物事を想像するだけではなく、集団でそうできるようになったのです。

この時に人の“もの造り”の原点である「アート」と「サイエンス」が始まったと考えています。発達した声帯を使い歌のような発声で会話をしていたネアンデルタール人は石でつくった刃物で象牙を彫刻しました。


『ライオンマン』


 マンモスの牙を材料に作られた約4万年前の彫刻像です。ライオンの頭と人間の胴体をあわせもつことから「ライオンマン」とよばれ、宗教・呪術・共同体のシンボルとして造られたと考えられています。

多勢を束ねていくには、同じ方向に目を向けさせるための象徴、いわゆる精霊、守り神の存在を感じさせる虚構が必要となったのでしょう。その”虚構”のおかげで、認知的能力(学習、記憶、意思疎通の能力)が劇的に発達して「認知革命」を起きたといわれています。

また、映像の原点ともいえる壁画を描き、石をサークル状に並べる儀式的なモニュメントをつくるなど家族単位で行動していたネアンデルタール人は最初の芸術家(アート)と考えています。



空想上の動物が描かれているショーヴェ洞窟の壁画


 

一方、社会的なクロマニョン人•(ホモ サピエンス)は、無数の赤の他人と著しく柔軟な形で協力できるようになり、世界を支配したのです。

ひ弱な筋力を補完するための投てき具などの道具を発明した最初の研究者(サイエンス)と考えるとワクワクしてきます。さまざまな種のDNAが現代人に受け継がれてきているのです。





人の能力を補完する道具「アートとサイエンス」


 ヨーロッパでは現代までの二千年もの間、国家をつくって繁栄してきたバビロニア人やエジプト人、フェニキア人、ギリシア人、ローマ人、ガリア人、ゴート人といった民族は、領土を奪い合う中でほろび去り、あるいは他の民族と混血していきました。

 その国家をくりかえし破滅されたユダヤ民族だけが、国から国へと追い立てられ、迫害されながらも、おそろしく長い時間を耐えぬき生き残った唯一の民族なのです。

 ただ、死滅した生きものやほろんでしまった民族の生命力のあるDNAは、現代人に引き継がれ生き続けていると考えられます。


 人は、他の生きものと同様に環境の変化や社会変動に順応して生きていくために必要な能力を補完するためにあらゆるものを造り続けてきました。それこそ、文明や文化の伝承や開発をくりかえしながら、人が造りだしてきたものが”アートとサイエンス”なのです。



 紀元前2千4百年、エジプト文明が地中海を渡り、クレタ島からギリシア都市国家に影響していきました。ギリシア人は、アートを「熟練した洞察力と直感を用いた美的な成り行き」と定義しました。


『死者の書』 古代エジプト


『ミノアの数字の壁のフレスコ画クノッソス』 クレタ島ギリシャ

 

『古代ギリシア壺』



 これらのアート・ヒストリーは、壮大な過去をイメージする物語の世界です。本当のことは誰にもわからないのです。

 古代ギリシア人が、人の心を動かす本質を真剣に考えていたように、これまで人が造りだしてきたもの”アートとサイエンス“を「人が生きていくために必要な能力を補完するための道具」といった視点で見直しています。人が生きていくためにこれまでもこれから先も必要となるクリエイティビティ(創造性)とは何なのかを探求していければと考えています。


サモトラケのニケ




創造性の効力


 創造性が人の心に影響していることを露呈する出来事として、現代では小学校で起きた無差別の殺傷事件発生の数ヶ月後、恐怖感が残る児童に対して学校に復帰させるために校内での合同授業でのリハビリが行われました。これは決められた図柄を指定された枠内に決められた色を生徒全員で一緒に塗っていくという単純な壁画制作でした。先生や友達と協力しながら一枚の壁画作品を完成させていく行為の中で生徒たちの心が徐々に開かれていき、小学校で友達と集まることの喜び、楽しさを自然に取り戻していけた創造性がもつ魅力、威力が効果的に使われていた印象の深い事例のひとつです。

 また、創造性を学んでいく過程で、自虐行為や過食の症状が無くなっていった教え子もいます。小さな出来事まであげていったらきりがありませんが、創造性の影響力は多岐にわたり、計り知れません。


 舞台や絵画、彫刻、絵本など、いわゆる作家活動に限らず、あなたが創造性と考えるものなら「創造性の効用」が、理想の旅行計画やおもてなし料理、夢のマイホーム構想、明るい将来のためのリフォーム、家族を喜ばせるレジャー、自分を成長させる仕事とどんな表現にもあてはまるはずです。それが創造性の魅力であり、威力です。





閲覧数:177回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comentarios


bottom of page