エスキース
『効率:計画性レベルの高さ』
エスキースとは、具体的な「夢」を具現化するというよりは、内なる欲求を吐き出す作業と言えるでしょう。
『人物習作』 ヘンリー・ムーア
「エスキース」という概念は、美術史において多くの名だたる芸術家たちによって実践されてきました。レオナルド・ダ・ヴィンチの『壁画のためのエスキース』はその代表例です。
彼は、「最後の晩餐」など、何度も構想を練り直し、最適な構図を探し出すために数え切れないほどのエスキースを行いました。この過程は、彼が持つ緻密な計画性と無限の創造力を象徴しています。
『最後の晩餐』1495-97年 レオナルド・ダ・ヴィンチ
サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会
エスキースは、ルネサンス期のイタリアにおいて、芸術家たちが新たな技法や表現を模索するための手段として活用されました。それは単なる下書きではなく、芸術家の思考や感情が直接反映される重要なプロセスでした。
『聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ』 1499年 - 1500年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ
『聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ』
『子どもの研究』
『女性の手の習作』 レオナルド・ダ・ヴィンチ
『糸巻きの聖母』1501年頃
『リビヤの巫女のための習作』1510年頃 ミケランジェロ
『リビヤの巫女』1510年頃 ミケランジェロ
『人体スケッチ』 ミケランジェロ・ブオナローティ
ヘンリー・ムーアもまた、『彫刻のための人物習作』を通じて、抽象と具象の間で揺れ動く彼の創造の過程を明確にするためにエスキースを活用しました。
『彫刻のための人物習作』 ヘンリー・ムーア
ヘンリー・ムーアのスケッチブックには、作品が完成する前に数多くの試行錯誤が刻まれており、それが彼の彫刻作品に独特の深みを与えています。
エスキースの重要性は、歴史の中で確固たる地位を築いています。例えば、ピカソはその斬新な発想を形にするために数え切れないほどのエスキースを制作しました。彼の『ヴァイオリンと葡萄』は、彼がどのようにして新しい芸術的スタイルを構築し、キュビズムという革新的な表現形式を確立したかを物語っています。
『ヴァイオリンと葡萄』 1912年 パブロ・ピカソ
エスキースを行うことで、芸術家は自らのビジョンを具体的にし、作品の完成度を高めることができます。それはまるで旅行前の綿密な計画と同じであり、計画がしっかりしていればいるほど、旅は充実したものになるでしょう。無計画な旅は、予測不能な展開が魅力である反面、思わぬトラブルに直面することもあります。同様に、エスキースを怠ると、作品制作においても同様のリスクが伴うのです。
ナポレオン4世のアフリカ遠征の噂に基づいて描かれたとされるアンリ・ルソーの『熱帯嵐のなかのトラ』も、実際には近所の植物園や動物写真集、知人の旅行記から着想を得ていることが後に明らかになりました。彼は、現実の経験を基にしたエスキースを積み重ね、独特の幻想的な世界を描き出したのです。
『熱帯嵐のなかのトラ』 アンリ・ルソー
『蛇使いの女(The Snake Charmer),』 1907年 アンリ・ルソー
エスキースの力は、ただのスケッチにとどまらず、芸術家の内なる世界を視覚化し、それを基に行動に移すための重要なプロセスです。「好き」という感情が最強のパワーとなり、エスキースを通じて具体的な形に結実していくのです。
続く章では、こうしたエスキースのプロセスが、芸術家の日常や彼らが持つ正直な生き方にどのように影響を与えているかについて探っていきます。
≪Chapter 6 正直に生きている人は面白い≫に続く
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