はじめに
歴史に名を残した芸術家たちは、時代ごとに新しい価値観を生み出し、人々の認識や社会そのものを進化させてきました。彼らの創造的な業績は、単に美的な表現にとどまらず、社会構造や人間の思考にまで影響を与え続けています。
たとえば、19世紀のフランス・パリでは、モンマルトルの丘にあるバトー・ラヴォワール(洗濯船)に集った若き芸術家たちが新たな表現を模索し、印象派やキュビスムといった芸術運動を通じて世界中に影響を与えました。この場所は、芸術の既成概念を打ち破り、新たな視覚言語を生み出す革命の中心地となりました。
左からモディリアーニ、ピカソ、アンドレ・サルモン(1916年8月12日パリ)
バトー・ラヴォワール(洗濯船)
同時期のイギリスでは、産業革命の影響を受けながらも、保守的な新古典主義を代表するアングルと、革新的なロマン主義を推し進めたドラクロアらが、芸術の方向性を巡って激しく対立しました。彼らはそれぞれの信じる道を開拓し、絵画や音楽、文学、舞台芸術などに新たな価値をもたらしました。
『民衆を導く自由の女神』 1830年 ウジェーヌ・ドラクロワ
さらに14世紀のイタリア・ルネサンス期では、芸術家たちが相互に刺激を与え合いながら、サイエンス、アート、経済といった分野において爆発的な革新をもたらしました。この時代の芸術的創造性は、ただの文化的現象にとどまらず、ヨーロッパ全体の思想や経済にも影響を及ぼし、長期にわたる変革の礎となったのです。
ミケランジェロ『最後の審判』システィーナ礼拝堂
『最後の晩餐』1495-97年 レオナルド・ダ・ヴィンチ
サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会
『アテナイの学堂』(1509年 - 1510年) ヴァチカン宮殿ラファエロの間
これらの例に見られるように、創造的な活動は、人類の進化と深く結びついています。この動きは、太古のネアンデルタール人やクロマニョン人の時代から続く「認知革命」の一環であり、私たちの「気づき」と「思考」は、常に未来を形作ってきたのです。
現代社会では、明確な答えのない問いがあふれています。これらの問いに答えるためには、多角的な視点を持つことがますます重要になっています。
芸術を学ぶことによって、多様な視点を身につけ、社会の様々な問題に対応できる能力を育むことができるのです。
「創造性」が、なぜ今必要なのか
アインシュタインが残した言葉、「直観は聖なる授かりものであり、理性は誠実なる従者である。私たちは従者を敬う社会をつくり、授かりものを忘れてしまった」という言葉は、現代社会において創造性の価値を見直すべきだと強く訴えかけています。
1921年、ウィーンでの講義中のアルベルト・アインシュタイン
近代社会や教育は、人間に備わる本当に大切な能力、すなわち知覚・直感・想像力・創造力を軽視しがちですが、これらこそが、現代社会の抱える問題を解決するための鍵となるのです。
創造性が、人や社会を育てる
創造性は、次のような感覚機能を向上させ、私たちを生きる力で支えます。
よく観ること
しっかりと感じとること
多角的な視点を持つこと
伝え方を工夫すること
本質を探ること
違和感を見つけ解消していくこと
知らないことに気づくこと
創造すること
これらの能力を磨くことで、個人や社会の成長を促進し、新しい価値を生み出すことが可能となります。
生きるためのデッサン力
デッサン力とは、絵の上手い下手を超えて、情報を収集し伝達する能力、物事の構造を見極める力、そして計画を具体的に展開していく能力を意味します。頭の中のイメージを視覚化する感覚を磨くことで、日常生活や仕事においてもその効果を発揮します。
現代の経営においても、このような視覚的な思考が求められています。松下幸之助が語ったように、「経営とは、白紙の上に平面的に価値を創造するだけではない。立体というか四方八方に広がる芸術である」という考え方は、創造的思考がいかに重要であるかを示しています。
松下幸之助(1960年代初期頃)
≪アートの民主化 Chapter 1 なぜ? 違和感を感じとる≫ に続く
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