対象(モチーフ)を表面的に写し描くことは模写する力であって、デッサン力があるとはいえません。
対象の特徴、内部の構造、本質など多角的な視点でとらえる観察力、的確に情報を読み解いて意をもって再構築する思考力、誤解がないように分かりやすく伝える力、この感覚機能を使い絵に描いて視覚化する力がデッサン力です。
『跪く女性の衣装の習作』レオナルド・ダ・ヴィンチ
まずは、なぜデッサンレッスンが、「アートやデザインのような創造性のある特殊な職業」以外の一般社会人にも必要なのか?デッサンレッスンって、どんなイメージで、どんな絵を思い浮かべますか?
鉛筆や木炭、コンテなどの画材を使って、モチーフを写真の様に写し描いていく修行のようなイメージを持たれている方が多いようですね。勿論、造形力を磨くために何枚もデッサンを描くといったこともありますが、そもそも「デッサン・デザイン」とも同じ語源である「designare(デシネーレ)」は、計画や考えを示すという意味をもつ設計図や企画書みたいなものです。
一般企業の方たちもクライアントから依頼された、あるいは望んでいる考えや目的を正確に読み解き、コンセプトを提案し、商品化して伝達していく必要があります。クライアントと目的を共有するために絵に描ける(思考を視覚化する)ことでコミュニケーション能力も向上する。こういったいわゆる画力だけではなく、観察力・思考力・伝達力といった感覚機能がデッサンレッスンで磨くことができるのです。
教育機関だけではなく、企業や行政の職員の方に向けてデッサンレッスンを取り入れた研修も実施されています。一般企業と芸術家の組み合わせって不思議に思う人も多いでしょうが、どの社会人研修でも共通して、人間の持つ感覚機能(観察力・思考力・伝達力)=創造性を磨くことが求められているのです。
『聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ』1499年 - 1500年ごろ レオナルド・ダ・ヴィンチ
『基礎力』
アートの基礎力をつけるためには、まずデッサンを描きます。
デッサンする対象を「モチーフ」と呼び、描く目的意識(モチベーション)を意味します。デッサンの基礎は、モチーフをよく観ることからはじめます。描きながらよく観るとモチーフについて新しい発見が生まれます。「絵に描ける」ということは「モチーフを理解できた」ということが実感できるのです。そういった気づきが増えていくことでモチーフへの印象が変わり関心が深まっていきます。
対象への関心が深まり、さらによく観つづけることで“答えのない問題(悩み)”の原因が分かってきて対処(解決)の糸口も発見することができます。このようにデッサンの基礎を学ぶことで「描くコツ」だけではなく「見方のコツ」も身についていきます。
よく観る習慣がついて観察力が向上してくると観る対象への着眼点が劇的に変わってくるのでモチーフや身の周りのモノ・風景だけではなく、絵画の観方も変わってきます。それまで知っているつもりだった絵画をよく理解していなかったことに気づき、それまで関心のなかった作家や時代の絵画までも新鮮な魅力が観えてきて鑑賞作品への興味の幅が広がっていき、作者の制作意図の理解も深まっていくのです。
たとえばルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「モナ・リザ」もそれまでは”名画“という見方、とらえ方だけだったのが、視点を見直すと色んなことに気がつきます。
・なぜ「モナ・リザ」を持ち運びやすい小さいサイズのキャンバスに描いたのか?
・仕事でも途中で投げ出すほど飽きっぽい彼がこの絵だけ執着して、なぜ何度も加筆していたのか?
・この絵のために開発した絵画技法や左右を違う表情で描かれた顔、大きく描いている右手、背景に描かれている風景はどこなのか?
レオナルド・ダ・ヴィンチ「モナ・リザ」1503-1506年
彼自身が「私の作品を理解できるのは、数学者だけだ。」と言っているようにこの絵にはたくさんの仕掛け(意図)が潜んでいます。よく観察することで作者の意図に気づいていけるとそれまでとは全く違う絵として目に映り、違った興味が生まれてきます。
絵を描かなくても、絵を描くように対象物(モチーフ)をよく観て、観察力いわゆるデッサンの基礎を学ぶだけでも対象や絵画の見方だけではなく、日常の感じ方、五感の使い方が変わってくることに驚くはずです。
『絵は、人を育てる』
デッサン力とは、単に絵の上手い下手の問題ではなく、情報を収集する力や伝達する力、ものごとの構造を見極められることや構想している計画や企画を具体的に展開していく力、頭の中のイメージを具体的な絵に描き出す力といえます。そもそも「デッサン・デザイン」とも同じ語源である「designare(デシネーレ)」は、計画や考えを示すという意味をもつ、頭の中で考えたことを可視化して伝える設計図や企画書みたいなものです。
子供の教育としても社会人にとっても相手の望んでいる考えや目的を正確に読み解き【リサーチ力】、頭の中で考えた洞察・アイデア【発想力】を他者と共有できるように可視化して伝達【プレゼンテーション力】していく必要があり、これらの力を磨くことでコミュニケーション能力も向上していきます。この感覚機能を磨くことが日常生活や学校教育、一般的な仕事でも見直されてきています。
子供から大人まで絵を楽しく活用しながら画力だけではなく、観察力・思考力・洞察力・伝達力といった感覚機能や創造性を磨いていくことができるのです。
『月の水彩画』 天文学者ガリレオ・ガリレイ
『絵を描くことの楽しさを思い出す』
壁や地面に描いた絵、クレヨンで描いた夏休みの思い出、着てみたいドレスや試してみたい髪型の絵、芋版、絵ハガキ、友達や先生の似顔絵、教科書に描いたラクガキ、…絵が苦手という方はいつから描くことが楽しくなくなったのでしょう。
幼い頃は描く絵に「答え」を決めつけていなかったので、じょうずもヘタもなくワクワクして好きな色で自由自在に塗ったり線を描いたりしていました。漫画やアニメを観るようになってから憧れのキャラクターを描き写したい欲求が出てきて上手く描けるクラスの人気者と比べはじめ、絵を描く才能の有無を決めつけていったのではないでしょうか。
美術館や画集、美術の教科者などで写真のように描かれた写実絵画や個性的な名画に出会ったときに「自分には画家のような絵を描くことはできない」と思い込み、いつの間にか描く絵の「正解」を勝手に決めて「写真のように上手く描き写せないから恥ずかしい。」と絵を描くことを極力避けるようになっていった人も少なくないと思います。
大半の人が絵を描けないのではなくて、描かなくなったから苦手だと思い込んでいるのです。絵に正解はありません。誰かに評価されることや喜ばせたり驚かせたりするためではなく、自分がワクワクできればいいのです。まずは絵を描きはじめることが大切です。様々な用途で絵を楽しんで描く習慣がつけば、誰でも上達していくのです。
『芸を志すものは、まず基礎を学ぶ』
「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。メチャクチャだ。」
「型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる。
どうだ、わかるか?」 立川談志
そもそも“基礎”とは専門的な知識でもスキルでもなく、使い慣れていない新しい感覚を呼び覚ますことなのです。まずは理解することが大切で、対象をよく観て本質を捉えることの的確さが、スキルの上達や精度にも違いが出てきます。
「凡庸な人間は、注意散漫に眺め、聞くとはなしに聞き、感じることもなく触れ、味わうことなく食べ、体を意識せずに動き、香りに気づくことなく呼吸し、考えずに歩いている」
とレオナルド・ダ・ヴィンチは嘆き「あらゆる“楽しみ”で、感覚的知性を磨くことができる」と提唱していました。
日常の中に潜んでいる心揺さぶられる一瞬のきらめきを身体全体の感覚機能(五感)を磨けば、感じとれるようになります。そんな気づきと心に秘めていた強い想いとの組合せでブレイク スルーが起こり、誰でも古い世界観の枠を突破していくイノベーターになれるのです。
『生きるためのデッサン力』
デッサン力があるということは、絵の上手い下手の違いではなく、情報を収集する力や伝達する能力、ものごとの構造を見極められることや構想している計画や企画を具体的に展開していく能力(プランニング)。頭の中のイメージ(ビジョン)を絵に描き出す感覚を磨くことが日常生活や一般的な仕事で見直されてきている。
『絵を習うということは』
実はものの観方、多角的な捉え方・考え方、伝え方を学ぶということであり それは単に漠然と目で見ることよりも多くのことを意味している。 ものごとを前とは違うやり方で観ることができる。 その身につけた技能を応用して一般的な思考や問題解決の能力を高めることができる。
『絵を描くことで身につくこと』
記憶力、計算力、語彙力、情報処理力などの能力が求められるが 可愛い、美しいと感じたり感動したりする 情動をつかさどる前頭葉が機能しなければ 家族や友達と幸せな日常を過ごすことはできない。 人にはアートとサイエンスの両方が必要。 美意識、文化を日常的に感じていると生活に張りがでる。
絵(デッサン)を描くときにも「よくみる」ことが基本ですが、これは「必要な情報を見極め、的確に捉える。物事を理解する」ということです。何かを理解するときに五感を使って知覚することは重要な役割をはたします。
『絵に描くと心が折れにくくなる』
サムネイルやアイデアスケッチは漠然とした「夢」を具現化するというより、 内なる
欲求を吐き出す作業といえる。 目的やアイデアが視覚化されると積極的に行動できる。
『眠る女たちの習作』 ヘンリー・ムーア
絵は、脳を活性化させるための手先の運動と考えた方がいい。 体を動かした方が喋りやすかったり、考えがまとまったりする。 デッサンは本番に失敗しないための練習ではない。 手先を動かした方が、脳が活発に働いて新鮮なアイデアも浮かぶ。 アイデアを絵に描くことで、具体的になり行動できる。
絵を描いたり、ものを造ったりしているときの充実感は 子供の頃、時を忘れてずっと遊んでいた時間に似ている。 思考(イメージ)と行動の繰り返しが人を成長させ、 充実させていく。 楽しいから集中し、思考量が増えて具体的な行動に移れる。 本当に欲しいものは、文化的なことで手に入れられる。
『習慣が創造性を培う』
「よく観る、よく感じとる」習慣があって、身近な自然に触れているなど日常的に五感を磨いている人は、 ものごとの微妙な変化や些細なことにも気がつく。
創造性とは、センスや才能の有無ではなく、 習慣である。
日常に感動できる人は幸福 「よく観る」習慣があって、身近な自然に触れているなど日常的に 五感を磨いている人は、些細なことにも気がつく。 感覚が敏感だとそれだけ感動する経験が多く、 日常生活の中で幸せを感じとれる感覚が身についている。
『紙面の2次元ではなく、現実の3次元で考える。』
経営の神様である松下幸之助が「経営とは、白紙の上に平面的に価値を創造するだけではない。立体というか四方八方に広がる芸術である。となれば、経営者はまさに総合芸術家。」と言っている彼はクリエイターである。
『相対性』 1953年 マウリッツ・エッシャー
『創造力は欲求の強さ』
何か才能や技術がないと創作、表現をすることが出来ないと勘違いをしている方がたくさんいる。絵にしても小説にしても遊びにしても大切なのは突き動かす衝動であり、その衝動を誰かに伝えたいという欲求があること。
『最も高貴な喜びとは、理解する喜びである』
by レオナルド・ダ・ヴィンチ
トリノ王宮図書館が所蔵するレオナルドの自画像(1513年-1515年頃)
『人に必要なこと』
教育で問われている”知識”か”考える力”か? その前に必要な
・問題点を見つけ出す力
・違う視点に気づく力
・知らないことを受け入れる力
が“答えのない問題”を解決していく創造力につながる。
やはり人には“心身の動揺を伴うような強い感動から沸き起こる欲求”が必要だと思う。
『創造性が、人や社会を育てる。』
・よく観ること
・しっかりと感じとること
・多角的な視点を持つこと
・伝え方を工夫すること
・本質を探ること
・違和感を見つけ解消していくこと
・知らないことに気づいていくこと
・創造すること
これら生きるために大切な感覚機能を創造性でバージョンアップできる。
『日常の創造力』
何か問題が起こったときに「どうしよう」
と頭が不安で真っ白になるのではなく
その時点から「どうしていこう」
とできることからはじめられる力が創造力
『創造のコツ』
創造のコツは、それがどこから得たものかわからないようにすること。 個性とは、選択して構築してきた情報の違い。 独創性とは、心揺さぶられたこと、欲求、興味で選んで記憶している情報素材を新鮮な気持ちになれる組み合わせで再構成されること。
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