映画監督の色へのこだわり
色は、白と黒の濃淡で表現できる。まさにこの理屈でモノクロ映画の美しさを表現した人物がいます。
映画『羅生門』(1950 年)など、数々の名作で世界を魅了した黒澤明監督です。
『7人の侍』
当時、モノクロ映画は映像の美しさを追求するものではありませんでしたが、彼は「光と陰による色の効果」を利用して、モノクロ映画に色を感じさせることにこだわりました。
それは彼が元々映画監督志望ではなく、画家志望だったからなのです。
画家志望だった黒澤監督は、印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホの絵にあこがれていました。ゴッホの絵といえば、感情をむき出しにしたような鮮烈な色合いが特徴です。
『自画像』1887年春 フィンセント・ファン・ゴッホ
そうした背景もあり、黒澤監督はとくに撮影するセットや衣装、背景の配色にはこだわっていました。
侍が刀で斬り合い、吹き出す鮮血を墨汁にするなど、映像がモノクロ化されたときの濃淡をイメージしながら、撮影する対象の配色を意識していたのです。
「モノクロ」の映像で、どれだけ「カラー」を印象づけられるのかが、その映画の鑑賞者の感動に大きな違いが出るということを、黒澤監督は絵画から学んでいました。
映画 絵コンテ 黒澤明監督
映画 絵コンテ 黒澤明監督
映画 絵コンテ 黒澤明監督
映画 絵コンテ 黒澤明監督
映画 絵コンテ 黒澤明監督
映画 絵コンテ 黒澤明監督
色は、照らされる光の強弱によって鮮やかさが違って見えます。モノクロ映像や写真、デッサンの美しさは、対象物の色と光と陰のとらえ方に影響してきます。
デッサンはモノクロの表現ですが、どれだけ色を感じとれたか、それを明暗、濃淡表現に置きかえられたかで、そのデッサンの鑑賞者が感じるリアリティーは違ってくるのです。
『松林図屏風』では、墨の濃淡だけで空間も色も表現されています。
『松林図屏風』 安土桃山時代 16世紀 長谷川等伯
白黒の濃淡で描く鉛筆
鉛筆売り場に行くと、2BやHBといったさまざまな種類の鉛筆が並んでいます。このアルファベットと数字の組み合わせは、一般的に6B から9H まで17 種類あります。
これらは一体、何を意味しているのでしょうか?
それは、芯の硬さと濃さの違いです。
Hの芯はHard(硬い)の頭文字を使い、
B の芯はBlack(黒い)の頭文字を表しています。
アルファベットと組み合わせて使われる数字は、
Hにつく数字が大きいほど硬くて薄い線、
Bにつく数字が大きいほどやわらかく濃い線が描けることを意味しています。
また、あまり馴染みのない人も多いかもしれませんが、
HとBのほかにF という種類もあります。
FはFirm(ひきしまった)の頭文字を使っていて、
17段階の中でいうとH とHB の中間を意味しています。
芯の種類
この硬さと濃さの違いは、鉛筆の芯の材料の違いによって生じます。芯は黒鉛と粘土を混ぜて作るのですが、この混ぜる割合によって硬さと濃さが変わります。
ただ、鉛筆の描きごこちは、芯の種類だけで決まるものではありません。実際は、温度や湿度 、どんな紙に書くかといった条件次第で変わってきます。
気軽に使えて、実は奥が深い鉛筆。まずは身近にある鉛筆で描き始めてみて、慣れてきたらこだわりの1本を見つけるのも、絵を描く楽しさにつながっていくでしょう。
貴重な黒澤監督のデッサンの話、鉛筆の話、ありがとうございます