序章
[creativity:創造性]と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
人の心を高揚させ、歓喜させるオペラやバロック絵画、ハリウッド映画、おしゃれなインテリアやファッション、浮世離れした芸術家、あこがれのイラストレーター、卓越した巨匠たちの彫刻、イタリアやパリでの生活、ルーブル美術館、印象派画家たちが描きだす輝く色彩…などでしょうか?また、思いどおりに絵を描いたり、創作できたりすることだけが創造性の魅力、威力でしょうか?
『落穂拾い』1857年 ジャン=フランソワ・ミレー
日本では、芸能スポーツに関する情報やその選手、芸能人たちの活躍は各メディアで頻繁に紹介され、社会におよぼす影響力もひろく知られていますが、アートやデザインもまた、あらゆる分野での可能性を秘めながらその威力や魅力を充分に有効利用されていないのが現状です。スポーツと同様、創造性も日常生活に密着したものです。また、その土地の文化に根付いたものであり、その時代を象徴するものでもあります。だからこそ創造性を学ぶことでその時代時代を生き抜く力を磨いていくことができます。
遠い昔、人類の祖先であるラミダス猿人が二足歩行で両手を使い始め、その後その手を使いネアンデルタール人やクロマニョン人が火を発見し石の道具を創り出すなどして、革命的に脳が発達したと考えられます。この時に人の“もの造り”の原点である「アート」と「サイエンス」が始まったと考えています。発達した声帯を使い歌のような発声で会話をしていたネアンデルタール人は石でつくった刃物で象牙を彫刻しました。また、石をサークル状に並べる儀式的なモニュメントをつくるなど最初の芸術家と考えています。一方、クロマニョン人は、ひ弱な筋力を補完するための投てき具や映像の原点ともいえる壁画を描いた最初の研究者と考えるとワクワクしてきます。さまざまな種のDNAが現代人に受け継がれてきているのです。
ネアンデルタール人の生活
『ブリュニケル洞窟ストーンサークル』
クロマニョン人が描いた『ラスコー洞窟の壁画:牛』
創造性が人の心に影響していることを露呈する出来事として、現代では小学校で起きた無差別の殺傷事件発生の数ヶ月後、恐怖感が残る児童に対して学校に復帰させるために校内での合同授業でのリハビリが行われました。これは決められた図柄を指定された枠内に決められた色を生徒全員で一緒に塗っていくという単純な壁画制作でした。先生や友達と協力しながら一枚の壁画作品を完成させていく行為の中で生徒たちの心が徐々に開かれていき、小学校で友達と集まることの喜び、楽しさを自然に取り戻していけた創造性がもつ魅力、威力が効果的に使われていた印象の深い事例のひとつです。また、創造性を学んでいく過程で、自虐行為や過食の症状が無くなっていった教え子もいます。小さな出来事まであげていったらきりがありませんが、創造性の影響力は多岐にわたり、計り知れません。
舞台や絵画、彫刻、絵本など、いわゆる作家活動に限らず、あなたが創造性と考えるものなら「創造性の効用」が、理想の旅行計画やおもてなし料理、夢のマイホーム構想、明るい将来のためのリフォーム、家族を喜ばせるレジャー、自分を成長させる仕事とどんな表現にもあてはまるはずです。それが創造性の魅力であり、威力です。
ターシャ・テューダー
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