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  • 執筆者の写真sfumita7

歴史に学ぶ 早わかり!絵の技法

更新日:1月27日


古代壁画や絵巻物に学ぶ平面的な絵の技法


「映像の起源ともいえる壁画」

 古代洞窟壁画(ショーヴェ)は、 壁際のたいまつの火が揺れるとでこぼこの壁面に描かれた動物の絵が動いているような錯覚を起こさせる。映像技術のアイデアをすでに古代人は発想していました。

 生きていくため獲物がとれるように願いをこめて描かれ、まじないの儀式のために壁画をやりで突いたと思われるキズもあります。また、火を照らすとでこぼこの壁面に描かれた動物の絵が動いてみえる効果があり、映像の起源ともいえる高度な表現がみられます。



空想上の動物が描かれているショーヴェ洞窟の壁画



「古代エジプト:永遠の生命(死者の書)」

・記録、「理解」している、「伝える」ことを神に向けて描いた絵

・生け贄の身代わり(副葬品)


『死者の書』

古代エジプト壁画



古代から絵を描くことは日常的に行われていました。たとえば紀元前に3000年も

続いた古代エジプト文明では、伝達手段・記録手段として絵が利用されていました。

そこに描かれた植物などは現代の学者が見ても納得するほどの正確さで、資料的な観

点からも非常に価値のあるものです。



そんな古代エジプトの壁画は、平面的な絵にもかかわらず、不思議な迫力あります。ここではその表現技法に注目してみましょう。

 

 たとえば古代エジプト絵画では、身分の高い人ほど大きく描かれています。




 手前になるほど大きく、奥に行くほど小さく描く西洋絵画(透視図法)



とは異なり、

古代エジプト壁画では、奥側であっても身分が高ければ、手前の人よりも大きく描かれているのです。それでもひたすら重ねて描かれているので奥行きが感じられるのです。



古代エジプト壁画の遠近法は、ひたすら重ねて奥行きをみせる。





   平面的だけど奥行きが感じられる絵としては、日本の絵巻物も挙げられます。

 日本の絵巻物は、西洋絵画とは違う遠近法である「吹抜け屋台」(斜上の空に視点を置き、屋根と天井を無視して屋内を描いたもの)や「空気遠近法」(水墨画にみられる濃淡で奥行きを見せる表現)などの平面的な絵の技法を発展させてきました。



日本の絵巻物のように空から俯瞰して、雲の重なりの間から屋根の無い家屋の様子などを見るような“吹抜け屋台”



水墨画のように濃淡で奥行きをみせる“空気遠近法”


『松林図屏風』長谷川等伯 安土桃山時代 16世紀




パースペクティブ = 遠近法


 パースペクティブとはざっくりと言うと平面上で奥行きやスペースを感じさせる、あるいはイリュージョンをみせる技法です。


西洋のルネサンス以降に完成された“透視図法“など様々な遠近法があります。


『ヴィーナスの誕生』1485年頃 ボッティチェルリ


『モナ・リザ』1503年 - 1505 1507年



   ボッティチェルリの“ビーナス誕生”とダ・ヴィンチの“最後の晩餐“”モナ・リザ“、これらを比べるとダ・ヴィンチが如何に遠近法の研究をしていたかが分かります。

   情報が複合的に重なってくることで信憑性が増すように名画“モナ・リザ”は、様々な遠近法(空気遠近法、透視図法、重ね(吹抜け屋台と同じ技法)が複合的に使われています。そこらヘンが同時代の名画の中でも目立ってしまうリアルさがあります。さらに薄いベールを頭にまとうことで輪郭線をソフトにし、対照的に手の輪郭をハッキリとみせることで手前にあるインパクトを出すことも遠近法の技術と言えます。



「ダ・ヴィンチが編み出したトリック効果『最後の晩餐』」   

幅が9mもあるこの壁画作品は、イタリアのミラノにあるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院の食堂壁面に描かれました。依頼を受けたダ・ヴィンチは、ただ題材を描くのではなく、絵の中にトリックを仕掛けています。

 「一点透視図法」で描くことで、イエスと12人の使徒がまるで見る人と一緒に食事をしているかのように描いたのです。


  一点透視図法は、消失点を1つ決めて、そこから放射線状に広げて空間を描く技法です。ではその消失点は絵のどこに設定されているのでしょうか。


 『最後の晩餐』1495-97年 レオナルド・ダ・ヴィンチ



   答えはイエスの右のこめかみです。

 ダ・ヴィンチはイエスの右のこめかみに釘くぎを打ち、そこから糸を張ってテーブル、天井、床などを描きました。こめかみを消失点としたもう1つの理由に、イエスの顔のうしろの窓があります。窓の光が、放射線状にのびる天井や壁面の線の効果で、聖人の頭に描かれる光輪を感じさせることに成功しているのです。



※透視図法の効果で、イエスと12使徒が、修道院で食事をとる人々と同じ空間にいるよう

 に感じられる。


サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会 食堂


「消失点が見つかるまでの絵画」 

 絵という平面的な世界の中で、現実と同じような立体感を表現するには透視図法が必要です。では透視図法が完成していない(消失点が発見されていない)絵を観てみましょう。


アンブロージョロレンツェッティ『善政の効果1336年』


アンブロージョロレンツェッティ 善政の効果 ライン入り


フラ アンジェリコ作 聖ニコラウスの生涯1437年制作


フラ アンジェリコ作 聖ニコラウスの生涯1437年制作 ライン入り



 下に挙げた絵も一点透視図法が編み出されていないルネサンス初期に描かれた祭壇画です。消失点が設定された絵「最後の晩餐」などと見比べると、空間に違和感を感じます。


『聖三位一体、聖母、聖ヨハネ寄進者たち』1425-8年頃 マザッチョ


    •描く人物の仕草(動き)の表現で”魂の働き“を伝える。

    •遠近法の(壁に穴があいたような)フレームの中に人物を置くことで、彫刻のような

     立体感を高める。

     •これらの効果を利用して、主題【感情(愛情、罪、罰、苦悩など)・美徳・悪徳】の意味

       をいっそう強く見る人の心に伝えようとした。



 ダ・ヴィンチは当時の最先端科学であった消失点を研究した1 人であり、積極的にその技術を絵画に落とし込んだ画家なのです。


『受胎告知』、1475年 - 1485年 レオナルド・ダ・ヴィンチ



アニメの世界でも空を飛び回るドラゴンボールのような世界は3点透視図法が使われ、




アニメの「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」の部屋の中などは1点透視図法や斜投影法といった遠近法が使われています。









「見上げさせるための彫刻ダヴィデ像」

 見上げる位置にセッティングすることを考え、胴体に対して顔を大きく首を長く制作し下から見た時にプロポーションが自然にみえるように造られています。

 遠近法は絵画だけの技法ではないのです。


『ダヴィデ像』1501–1504年 ミケランジェロ・ブオナローティ


「ダヴィデとミロのビ―ナス」頭身図



「遠近法的思考」

   目の前のものが目立って大きな問題としてみえてしまうが、視点を変えると違うものが大きくみえてくるといったことを哲学者のニーチェは“遠近法的思考”と呼んでいます。   遠近法は、絵画の世界だけでなく人生にも役立つのです。







光の効力 


「ものの印象を左右する光と陰の効果(明暗法 ムードメーカー)」

 光と陰には、身の回りのものを立体的に見せるだけでなく、印象や雰囲気を作り出す効果もあります。


『聖マタイの召命』1600年 カラヴァッジオ


 たとえば顔の真下から光を当てると、顔の凹凸に陰影がつき、おどろおどろしい雰囲気になります。人を怖がらせようと顔の下から懐中電灯を当てるのは、この仕組みを利用しています。また、光の差す方向や強さを変えると、同じ顔でも違った雰囲気を伝えられます。


『トランプ詐欺師』1594年頃 カラヴァッジオ


 こうした光の効果は、映画や演劇の舞台の演出、モデルの撮影などの照明として、また建築やインテリアなどの空間デザインにも利用されています。

 たとえば、レストランの照明を想像してみてください。家族向けのファミリーレストランは、店内全体が明るく親しみやすい雰囲気が演出されています。一方で、大人向けのシックなバーなどでは間接照明などを使ってムードのある雰囲気が演出されていますよね。



 



「レンブラントライト」

   レンブラントライトとは、画家レンブラント・ファン・レイン(1606年-1669年)が人物を描くときに多用したライティングの技法のことをいいます。人物の鼻筋に対してライトを斜め45°くらいの角度から当てて、陰になる頬骨辺りに三角形のハイライトを作り出します。


   これにより光と陰の差がはっきりして、立体感を強調できるのです。


『パレットと絵筆をもつ自画像』 1662年 レンブラント・ファン・レイン




   左斜上からの光(光源)の設定を「レンブラントライト」と呼んでいます。




   レンブラントは「光の画家」や「光と陰の魔術師」と呼ばれ、光と陰影の効果を使ったドラマチックな肖像画を描いたことで名をはせた人物です。

   その作品の多くは、日常で見たままの景色を写しとるのではなく、わざと舞台のように暗い場面の中で、主役にスポットライトを当てるように描かれています。


『フランス・バニング・コック隊長の市警団』1642年 レンブラント・ファン・レイン


   レンブラントはこうした光と陰影の対比を利用し、絵に「物語」を与えていました。

   光と陰を理解することは、絵を描くときの技法として役立つだけではありません。美術作品を見たときに「なぜここに光が当たっているのか」、「どんな情景を伝えているのか」など、鑑賞を楽しむためのヒントにもなります。同じ作品を見ていても、知っていると知らないとでは見えてくる物語や意味が変わります。

   

    美術館などに足を運び、改めて作品を眺めてみてはいかがでしょうか。新たな発見があるかもしれません。




「光の空間演出」

 19世紀フランス、バルビゾン派を代表する画家のひとりカミーユ・コローは、それまでの光の演出とは違った視点で、新しい明暗技法を切り開きました。


『モルトフォンテーヌの思い出』1864年 カミーユ・コロー



 近景・中景・遠景の光の演出(交差)によって、空間の奥行感を深めました。この手法は、舞台や映画撮影などでの照明演出にも使われています。


舞台の照明




明暗のサンドイッチで奥行感を演出している。




「日本絵画と西洋絵画の違い」

  西洋では日が暮れてもなかなか明かりをつけません。光が移ろう美しい時間を楽しんでいます。薄明りの中で過ごす時間が多い人ほど明暗の感度が敏感になるのです。東洋の線のこだわりに対し、西洋は光と影にこだわり、その表現に幅があるのです。


   日本では、情緒に感動して癒され、心で理解する情緒思考文化が栄えました。江戸期に見られるような浮世絵、つまり視覚情報を簡略化した記号としての絵画です。

 西洋は、脳を刺激し成長させていく論理思考文化を追及しました。ルネサンス以降は特に写実が栄え、視覚をいかにして正確に描写するかを追求した絵画です。


 西洋絵画は、浮世絵や水墨画などの日本絵画に比べて、写実的に見えるものが多いと感じたことはありませんか?

 たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』(1495 年- 1498 年)と、長谷川等伯によって描かれた『松林図屏風』(1590 年代)を見比べてみましょう。

 奥行きの表現で切りとってみると、『最後の晩餐』では一点透視図法を用いて部屋の様子が立体的に描かれていたり、窓の外に見える山は空気遠近法によって、手前に描かれている人物などよりも淡くぼんやりと表現されたりしています。


『最後の晩餐』1495-97年 レオナルド・ダ・ヴィンチ

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会



一方『松林図屏風』では、墨の濃淡だけで、松林の奥行きが表現されています。


『松林図屏風』 安土桃山時代 16世紀 長谷川等伯



 もう1つ、奥行きとは別の観点でも大きな違いがあります。それは、光と陰の表現です。『最後の晩餐』のような西洋絵画は、光源を設定して光に対する陰影をつけることで、リアルな描写を行っています。

 それ対して、西洋の美術との交流がなかった時代の日本絵画では、光と陰の表現がほとんどありません。

 しかし、これは決して日本絵画が写実的な絵を描けなかったというわけではなく、光陰表現よりも輪郭や質感、配置といった表現に重きを置くという、日本独自のリアリズムが追求されていたことを意味しています。


   線で描いた絵は、視覚情報の入り口(特に物体の境界となる線の位置、傾き、太さ、動き、奥行きなどのさまざまな要素を分析)に強く訴えかけ、面で描いた絵は、最終ステージ(特に質感のある面の組み合わせで作られる形など、統合された物体の情報を処理)に強く訴えかけます。


『富嶽三十六景-神奈川沖浪』 江戸時代 葛飾北斎





「光によって見える色」

   色は白と黒の濃淡で表現できる。まさにこの理屈でモノクロ映画の美しさを表現した人物がいます。

   『羅生門』(1950 年)などを数々の世界を魅了した映画作品をつくった黒澤明監督です。


『羅生門』


『7人の侍』



 当時、モノクロ映画は映像の美しさを追求するものではありませんでしたが、彼は「光と陰による色の効果」を利用して、モノクロ映画に色を感じさせることにこだわりました。

 それは彼が元々映画監督志望ではなく、画家志望だったからなのです。

 

 画家志望だった黒澤監督は、印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホの絵にあこがれていました。ゴッホの絵といえば、感情をむき出しにしたような鮮烈な色合いが特徴です。


『自画像』1887年春 フィンセント・ファン・ゴッホ



 そうした背景もあり、黒澤監督はとくに撮影するセットや衣装、背景の配色にはこだわっていました。

 侍が刀で斬り合い、吹き出す鮮血を墨汁にするなど、映像がモノクロ化されたときの濃淡をイメージしながら、撮影する対象の配色を意識していたのです。

 「モノクロ」の映像で、どれだけ「カラー」を印象づけられるのかが、その映画の鑑賞者の感動に大きな違いが出るということを、黒澤監督は絵画から学んでいました。


映画 絵コンテ 黒澤明監督


映画 絵コンテ 黒澤明監督


映画 絵コンテ 黒澤明監督


映画 絵コンテ 黒澤明監督


映画 絵コンテ 黒澤明監督


映画 絵コンテ 黒澤明監督



 色は、照らされる光の強弱によって鮮やかさが違って見えます。モノクロ映像や写真、デッサンの美しさは、対象物の色と光と陰のとらえ方に影響してきます。

 

 デッサンはモノクロの表現ですが、どれだけ色を感じとれたか、それを明暗表現に置きかえられたかで、そのデッサンの鑑賞者が感じるリアリティーは違ってくるのです。




「光の力」

 身の回りにある「光と陰」を観察し、その効果を活かした表現により印象深い絵に仕上げられるなど、気分や日常生活も豊かに演出されます。

   瞑想状態や何かに没頭している時に前頭葉のΘ波の数値が上がるようですが"好き”や懐かしさ、心地よく感じる光の影響、心が揺さぶられることは具体的なデータにしにくい。


 光の芸術と言われる西洋絵画の明暗表現が、観る人の心を高揚させ感動させるので”光”も似たような効果を引き出すのでしょうね。 


『聖マタイの召命』1600年 カラヴァッジョ


   人との会話で伝えたいことのうち、言葉で伝わるのは7%ほど、声(声色、抑揚、その他の音)が37%。残り55%は、表情やしぐさなどの言葉以外のコミュニケーション。しかし指さしなど身振り手振りを言葉の代わりにすると誤解をまねきます。

   人は感覚の83%を占める視覚情報で判断しているのです。


   絵を観ることや描くことで、観察力を磨いていくとそれまでとは違った視点が見えはじめます。最初は目の前にある問題だけしか見えなかったのが情報の領域が広がっていき、その物事に影響を及ぼしている周囲の状況が見えてきて、問題点の本質を理解していくのです。よく観ることで解決の糸口が見つかります。


 古代からパワーの源や希望の象徴となる「光」は、人にとってなくてはならない大切なものなのです。私たちの生活において「光」の効果は、まだまだ可能性を秘めているのです。





写実絵画技法の集大成


「モナ・リザは微笑んでいなかった!? 」

”モナ・リザの微笑み”といえば誰だれもがイメージできるくらい有名な表情ですが、本当に微笑んでいるのかは研究者の間でも長年議論が続けられています。



 一見すると微笑んで見えるのですが、スフマート技法による頬や口角の微妙な凹凸の表現によって「笑ってないのに微笑んでいるように見せている」という説があります。

 ためしにモナ・リザの口の部分を隠して見てみてください。また、左右の目をそれぞれ隠したり、顔の半分を隠すとどうでしょうか。

 見える顔のパーツによって、モナ・リザの表情も変って見えるのではないでしょうか。


『モナ・リザ』1503年 - 1505 1507年 レオナルド・ダ・ヴィンチ 


 飽きっぽいダ・ヴィンチが、この絵だけは生涯に渡り手元に置き、加筆をし続けた未完の作品といわれる『モナ・リザ(寸法77 cm x 53 cm)』。見る者にとっても常に新しい作品に見えるのはそのせいかもしれません。


ルーヴル美術館 (1797年から)



誰もが得られる喜び


   皆と同じものを日常で見て、同じような環境の中で、 他の人が気づかなかったことが気になり、 気になってしょうがなくなり探求が始まる、それが発見。


 『最も高貴な喜びとは、理解する喜びである』-レオナルド・ダ・ビンチ-


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