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アートシンキング 光で学ぶアート魂

  • 執筆者の写真: 聖二 文田
    聖二 文田
  • 8月24日
  • 読了時間: 11分

更新日:12月8日




光で学ぶ


アート技法とは、目の前のものをそっくりに写すためだけの方法ではありません。それは「自分が見た世界をどう感じ、どう表現するか」という技術です。


西洋の芸術では、光と影の対比を通して形の奥にある真実を追い求めてきました。光があれば必ず影が生まれる、そこに存在の確かさや深さを読み取ろうとしたのです。明暗を描くことは、単なる立体感の再現ではなく、「存在そのものをどう捉えるか」という問いでもあります。

親鸞の思想に触れると、光は限られたものではなく、弱さや影を抱えた人にも等しく届くものとされます。そこには「影があるからこそ光を知る」という逆説的な温かさが感じられます。日本の工芸や暮らしの美にも、派手に飾るのではなく、淡い光を受け止めながら日常に美を宿す姿勢がありました。美しい器や道具は、解説を必要とせず、人の手に触れることでその価値が自然に伝わっていきます。


デッサンを学ぶことも同じです。光と影を描くことは、対象の形だけでなく「その存在の意味」を心でとらえることにつながります。紙の上に刻まれた線や濃淡の中に、あなた自身のまなざしと世界への理解が映し出されているのです。



光の効果


美術の世界では明暗法(キアロスクーロ)など、「光」がとても大切な役割を果たしています。


『聖マタイの召命』1600年 カラヴァッジオ
『聖マタイの召命』1600年 カラヴァッジオ

例えば、太陽の光が当たってできる影を想像してください。日が差す時間帯や季節で光の向きや強さが変わると、影の形や濃さ(コントラスト)が変わり、それによって物の形や雰囲気が伝わってくるのです。


『真珠の耳飾りの少女』 1665年 フェルメール
『真珠の耳飾りの少女』 1665年 フェルメール
『フランス・バニング・コック隊長の市警団』 1642年  レンブラント・ファン・レイン
『フランス・バニング・コック隊長の市警団』 1642年 レンブラント・ファン・レイン

この技法はルネサンス時代に発展し、レンブラントやフェルメールといった画家たちが、まるで科学者のように光のふるまいを観察して絵に取り入れました。

また、モネのような印象派の画家たちは、朝や夕方、季節によって変わる自然光の色や量の違いを感じ取り、それを作品に表現しました。つまり光は、単なる明るさではなく、絵を見る人に時間や空気感まで伝えるための大事な要素なのです。


『散歩、日傘をさす女性』 1875年 クロード・モネ
『散歩、日傘をさす女性』 1875年 クロード・モネ


形の理由


私たちが目にする「」は、ただの見た目ではなく、そのもののしくみや役割が表れた結果です。

たとえば、鳥の翼の形は、空を飛ぶために最も適した形をしていて、長い進化の中で生まれたものです。自然界の形は、見た目が美しいだけでなく、「なぜその形なのか」という理由が必ずあります。


アルブレヒト・デューラー画
アルブレヒト・デューラー画

このような形の仕組みや背景を深く知ることは、アートやデザインの世界でも大切です。


レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿
レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿

ただ見た目をそっくりに描くだけでなく、内側にある「意味」や「機能」を理解することで、表現に説得力が増し、本質に迫ることができます。

の理由」を知ることは、美しさと科学が出会うところでもあるのです。



東西の質感表現


マンガを描くとき、「この服はふわふわ」「この机はツルツル」といった“質感”を出すことはとても大切です。実はその表現方法には、西洋と日本でちょっとした違いがあります。

西洋の絵画は「光と影」で質感を表現してきました。


ヤン=ファン=アイク『アルノルフィニ夫妻の肖像』1434
ヤン=ファン=アイク『アルノルフィニ夫妻の肖像』1434

たとえば、木の丸太を描くとしたら、影の落ち方や光の反射をていねいに描き分けることで「丸み」や「硬さ」を伝えるのです。明暗(グラデーション)の技法を使うことで、立体感や奥行きまでも描くことができます。


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一方、日本の伝統的な絵は「線」が主役です。「線の太さ」や「筆の勢い」、「途切れ具合」などを工夫して、形や質感を感じさせていました。

たとえば、『鳥獣戯画』のウサギやカエルはシンプルな線で描かれていますが、跳ねる軽やかさや毛並みの柔らかさまで伝わってきます。これは「線そのものが感情や質感を伝える」日本独特の考え方です。


『鳥獣戯画』
『鳥獣戯画』
『鳥獣戯画』
『鳥獣戯画』


マンガは、この日本の「線の文化」をしっかり受け継いでいます。キャラクターの表情をほんの数本の線で描いても、私たちは「怒っている」「笑っている」とすぐに分かりますよね。これは、複雑なものをシンプルに記号のように置き換える、日本的な質感表現の魅力です。


北斎漫画
北斎漫画

つまり、西洋が「光と影でリアルに迫る文化」だとすれば、日本は「線を磨き、シンプルに核心をつかむ文化」と言えます。そして、この“シンプルなのに伝わる力”こそが、今の日本のマンガ表現の強さにつながっているのです。


『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』 1857年 歌川広重
『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』 1857年 歌川広重


北斎が描いた富士山


『凱風快晴』 1832年 葛飾北斎
『凱風快晴』 1832年 葛飾北斎

江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎は『富嶽三十六景』など様々な富士山を描いています。同じ富士山を題材にしながら、見る角度や季節、周囲の人々や自然の様子を巧みに変えることで、富士山の持つ多様な表情や日本人の心に宿る「富士山観」を鮮やかに表現しました。これは、単に山を描くのではなく、「日本人にとっての富士山とは何か」というテーマを、構図という手段で伝えた好例です。


『富嶽三十六景-神奈川沖浪』 葛飾北斎
『富嶽三十六景-神奈川沖浪』 葛飾北斎

構図を料理に例えるなら、素材の味や季節感を最大限に引き出し、見た目にも美しく盛り付けること。つまり、素材(モチーフ)の個性を活かすことで、食べる人(鑑賞者)にその料理(作品)の魅力を伝える作り手の技といえます。


『日本橋はいばら』 葛飾北斎
『日本橋はいばら』 葛飾北斎
『礫川雪の旦』 葛飾北斎 
『礫川雪の旦』 葛飾北斎 
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もし「富士山を描いてください」と言われたら、あなたならどんな構図を選びますか。朝焼けの中で静かに佇む富士、あるいは嵐の中で力強くそびえる富士…、あなた自身の思いが、構図に表れます。

感情の赴くまま自由に描くことも大切ですが、達成感や充実感を得るには、やはり「構図」という目標達成のための明確な計画が必要です。

人生や芸術においても、「テーマ」を持ち、それを伝えるための構図を意識することで、より豊かな表現が生まれることでしょう。



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錯視を利用した遠近法


遠近法は、私たちの脳が目にした平面の図形を、あたかも奥行きのある立体として誤って認識してしまう現象を活用しています。


『アテナイの学堂』(1509年 - 1510年) ヴァチカン宮殿ラファエロの間
『アテナイの学堂』(1509年 - 1510年) ヴァチカン宮殿ラファエロの間

有名な例として、実際は平らに描かれているのに、奥にあるはずの部分が手前に飛び出して見えたり、逆にへこんでいる場所が突出して見えたりする「逆遠近錯視」があります。このようなトリックアートは、展示やワークショップで人気があり、参加者は自分の目がだまされる不思議な体験を楽しんでいます。


逆遠近錯視
逆遠近錯視
逆遠近錯視
逆遠近錯視
逆遠近錯視の図
逆遠近錯視の図

このような錯視が起こるのは、人間の脳が「遠くのものは小さく、近くのものは大きく見える」などのルールに従って世界を解釈しているからです。アーティストや科学者は、この脳の思い込みを巧みに利用して、平面の中にリアルな奥行きや立体感の錯覚を生み出しています。



生きているような人物画


美術解剖学は、ルネサンス期の芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチが始めた分野です。

彼は芸術家としての探究心から、自ら30体以上の人体を解剖し、その構造を何千ページものスケッチにまとめました。


『子どもの研究』アカデミア美術館素描版画室
『子どもの研究』アカデミア美術館素描版画室
レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿
レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿
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『女性の手の習作』 レオナルド・ダ・ヴィンチ
『女性の手の習作』 レオナルド・ダ・ヴィンチ
『子宮内の胎児が描かれた手稿』 1510年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ
『子宮内の胎児が描かれた手稿』 1510年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ
『ほつれ髪の女性』 1508年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ パルマ国立美術館
『ほつれ髪の女性』 1508年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ パルマ国立美術館

これは医学のためだけでなく、「生きているような人物」を描きたいという芸術的な熱意から生まれた行動でした。


こうした取り組みは、人物や動物の体を「外から見るだけでなく、中身を知る」ことで、筋肉の動きや身体のバランスを正確に捉え、見ている人にも説得力のある表現につながります。


『ウィトルウィウス的人体図』 1485年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ アカデミア美術館(ヴェネツィア)
『ウィトルウィウス的人体図』 1485年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ アカデミア美術館(ヴェネツィア)

今でも、キャラクターや動物画のリアルさを高めるためには、美術解剖学の基礎知識が欠かせません。芸術と科学が出会うこの学問は、私たちの「観察する力」と「表現する力」の両方を豊かにしてくれるのです。



『聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ』1499年 - 1500年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ ナショナル・ギャラリー
『聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ』1499年 - 1500年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ ナショナル・ギャラリー


絵の技法ヒストリー


ラスコー壁画
ラスコー壁画

アートの技法は、遥か昔、古代の壁画にその起源を持ちます。

例えば、フランスのラスコー洞窟やエジプトのピラミッド内の壁画では、人や動物の形が驚くほど生き生きと描かれていました。当時のアーティストたちは、まだ遠近法や明暗法といった概念を知らないながらも、観察したままの世界を表現しようと工夫を重ねていたのです。


古代エジプト『死者の書』
古代エジプト『死者の書』

時代が進み、ルネサンス期に入ると、デッサン技法は劇的に進化します。

この時代、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロといった巨匠たちが活躍し、自然や人体の観察が科学的な探究心と結びつきました。


『ウィトルウィウス的人体図』 1485年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ アカデミア美術館(ヴェネツィア)
『ウィトルウィウス的人体図』 1485年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ アカデミア美術館(ヴェネツィア)
『リビヤの巫女のための習作』1510年頃
『リビヤの巫女のための習作』1510年頃

ここで、遠近法による奥行きの表現や、明暗を使った立体感の演出(明暗法)が体系的に研究・発展します。デッサン(素描)は、物事の本質を理解し、形や構造を的確に捉え、リアルな表現を追求するための基礎訓練として重視されました。


『最後の晩餐』1495-97年 レオナルド・ダ・ヴィンチ サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会
『最後の晩餐』1495-97年 レオナルド・ダ・ヴィンチ サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会

『最後の審判』ミケランジェロ システィーナ礼拝堂
『最後の審判』ミケランジェロ システィーナ礼拝堂

こうしたルネサンスの革新的な技法は、現代のアートやデザイン教育にも深く根付いています。今描かれる一本の線にも、何千年にもわたる人間の観察と工夫の歴史が息づいているのです。



アートはメッセージ


アートは、私たちの心を動かし、視点を変え、人生そのものを豊かにする力を秘めています。これまで美術教育は「教養」や「感性」を磨くものとされてきましたが、実はそれ以上に、私たちの考え方や価値観に変化をもたらし、生活や仕事に新たな気づきや情熱、幸福感を与える学びの場なのです。


『ビードロを吹く女』1790-91年 喜多川歌麿
『ビードロを吹く女』1790-91年 喜多川歌麿

芸術の力は、単なる技術習得ではなく、自分自身と向き合い、新しい視点を得ることで、人生をより豊かにするための方法論です。

子どもから大人まで、すべての人に開かれたこのアートが、人々の創造性や可能性を引き出し、人生というキャンバスに新しい未来を描けることを望んでいます。


『モルトフォンテーヌの思い出』1864年 カミーユ・コロー
『モルトフォンテーヌの思い出』1864年 カミーユ・コロー


アートは魂の言語であり、心の窓を開く鍵です。私たちは長い間、美術教育を単なる教養や感性を磨くものとして捉えてきました。しかし、その本質はもっと深く、もっと力強いものなのです。

アートは、私たちの内なる世界を映し出す鏡であり、同時に外の世界を見る新しい眼差しを与えてくれます。それは単なる絵や彫刻ではなく、私たちの思考や感情、そして人生そのものを変える力を秘めています。

想像してみてください。キャンバスの前に立ち、筆を手に取る瞬間を。その時、あなたは単に色を塗っているのではありません。あなたは自分自身と対話し、世界と向き合っているのです。この過程で、私たちは自己を省察し、新たな視点を獲得し、問題を異なる角度から見る力を養います。


文田 聖二 『異世界 Different world 2023』№615
文田 聖二 『異世界 Different world 2023』№615

研究が示すように、芸術教育は空間認知や心的イメージ力、推論する力、粘り強さ、問題発見力を高めます。これらのスキルは、教室の中だけでなく、ビジネスの世界でも、日常生活のあらゆる場面でも活きてきます。


文田 聖二 2025drawing『resurrection』-29
文田 聖二 2025drawing『resurrection』-29

子供たちにとって、芸術は自己表現の手段であり、情緒の安定化と知能の発達を促します。大人にとっては、ストレス解消や創造性の源、そして自己実現の道具となります。

私が目指すアートは、単なる技術の習得ではなく、人生の質を高め、幸福感を増進させる実践的な方法論なのです。

 

美術館での鑑賞、アトリエでの創作、そして心理学的アプローチを組み合わせることで、私たちは自己と世界をより深く理解し、より豊かに生きる術を学びます。

この学びは、子供から大人まで、すべての人に開かれています。なぜなら、アートの力に年齢制限はないからです。今こそ、芸術の真の力を解き放ち、世界中の人々の人生を彩り、豊かにする時です。

さあ、一緒に新しい世界を描き始めましょう。あなたの中に眠る創造性を呼び覚まし、人生という最高のアート作品を創り上げていくのです。アートは、あなたの中にある無限の可能性を引き出す鍵なのです。


文田 聖二 2025drawing『resurrection』-26
文田 聖二 2025drawing『resurrection』-26

これまでアート、美術教育は”教養や感性“といった効用として扱われていましたが、実はサイエンスとして直接、人の考え方、視点の変化といった効果(気づき・熱中・欲求)があり生活や仕事への考え方も幸福感を高めていく”学び“だということを実証していくために芸術活動をしていきたいと考えています。


芸術は単なる教養や感性を磨くものではなく、私たちの考え方や視点を変え、生活や仕事に幸福感をもたらす力を持っています。アートを通じて、芸術の真の力を解き放し、世界中の人々の人生を豊かにしていきたいと考えています。

 
 
 

1件のコメント


虹わたる
虹わたる
9月15日

形の理由を考えると、不思議の必然性が分かってくるようです。

そういう観る視点のヒントを頂くと

自分との対話も増えるようです

ありがとうございます🩵


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